電動グリッパとは?|構造と原理・特性・用途・空気圧グリッパとの比較

工場のライン生産において、自動化やロボット化が普及しています。技術の進歩により、無人でも高度な作業がおこなえるようになりました。高度なライン作業を実現する技術のうち、人の指のように高い精度でロボットアームを動かしたいというニーズに応えるのが電動グリッパです。今回は、電動グリッパの基礎知識から、構造と原理、特性、用途を踏まえて、空気圧グリッパとの比較までを解説します。

電動グリッパの基礎知識

産業用ロボットアームの性能は、取り付けられたグリッパで決まるといっても過言ではありません。電動グリッパの適切な選定は生産ラインの効率化と低コスト化に直結します。ここでは、電動グリッパとは何かを説明し、その種類を紹介します。

電動グリッパとは

生産ラインの産業用ロボットアームなどが物をつかむ機構を「グリッパ」といい、そのうち電気の力で駆動・制御されるものが「電動グリッパ」です。把持力(物をつかんで保持する力)を制御することが可能で、ワークを変形または破壊させることなく扱うことができます。電動グリッパは高い精度で位置制御や寸法識別もできるため、生産ラインの無人化や自動化に欠かせないデバイスといえるでしょう。

電動グリッパの種類

グリッパの種類は爪の本数や爪の開き方で分けられます。

爪の本数

2爪グリッパ

対向する2本の爪で、両側から挟むように物をつかみます。四角いワークを扱うのに適しています。

3爪グリッパ

0°、120°、240°の位置から、3本の爪でワークを包むようにつかみます。丸みのある形状や円筒状の物体に適したグリッパです。

爪の開き方

平行開閉型

爪がスライドして開閉をおこなうグリッパです。強い把持力を持たせることができ、精度にも優れます。

支点開閉型

爪の取り付け部を支点として開閉するグリッパです。爪を10~30°だけ開くアングルタイプや水平位置まで開くラジアルタイプがあります。

電動グリッパの構造と原理

電動グリッパは、どのような仕組みで複雑な制御を可能にしているのでしょうか。ここでは、電動グリッパの構造や動作原理について解説します。

電動グリッパの構造

電動グリッパは把持機構とモーターで構成されています。電動グリッパを動かすには直流電源やコントローラ、ドライバが必要です。

把持機構

電動グリッパが物をつかんで保持するためには、すべりネジやウォームギア、カム、ラック・ピニオンといった機構を採用するのが一般的です。すべりネジとウォームギアは把持力が大きく、セルフロックによって電源を落としてもワークが落下しない特徴を持ちますが、伝導効率は高くありません。カムとラック・ピニオンにはセルフロックがありませんが、カムは軽量で小型化が可能、ラック・ピニオンは伝導効率が高く把持力が安定しているという特徴を持っています。

モーター

電動グリッパの駆動にはエンコーダ付のブラシレスDCモーターやステッピングモーターが採用されます。エンコーダとはモーターの回転状態の検出・符号化をおこなう装置のことです。回転方向や回転角度、回転速度、回転位置といった情報を得ることでモーターを精密に制御し、電動グリッパの爪を自在に動かすことができます。

電動グリッパの動作原理

電動グリッパの爪の開閉は、モーターの回転方向と回転速度を制御しておこないます。開閉の幅のフィードバックも、モーターのエンコーダで回転数を読み取ることで容易にできます。ワークをつかむ際の爪を閉じる速度や把持力の調整、ワークサイズに合わせた爪の開閉幅の調整などをコントローラで詳細に設定可能です。コントローラ内蔵型の電動グリッパもあります。

電動グリッパの特性

電動グリッパを選定する場合、以下の特性を考慮することが重要です。扱うワークや想定している運用方法などに合致するよう、メーカーカタログなどで確認しておきましょう。

ストローク

ストロークは電動グリッパの爪の開閉幅です。2爪グリッパの場合、メーカーによって爪の片爪幅か両爪幅か表記が異なります。3爪グリッパのストロークは、半径または直径で表されています。

把持力

ワークをつかんで保持する力です。比重が大きい金属製ワークをつかむには、ある程度の高い把持力が求められます。変形しやすい樹脂製のワークや、壊れやすい電子部品やガラス製品などを扱う場合は、把持力の下限にも注目すべきでしょう。カタログでは把持力をNで表記するのが一般的です。

位置決め精度

電動グリッパの移動量はデジタルに設定可能です。位置決め精度が高い機種を採用すれば繊細な制御ができ、ワークの向きや位置を揃える作業でもズレがほとんど発生しません。安定した繰り返し位置決め精度を持つ電動グリッパを採用することで、不良品の発生を抑えられます。

サイズ・重量

扱いたいワークを考慮して、電動グリッパのサイズや重量を選びます。ストロークや把持力などの性能が同じなら小型で軽量なほうが取り回しがよく、狭いスペースでの運用もしやすいです。

電動グリッパの用途

電動グリッパはワークの寸法を測定したり、把持力や速度を細かく制御したりすることができます。ワークの変形やキズ付を防げるため、チップの組付け搬送やサイズが異なる柔軽物の搬送、寸法確認などで使用可能です。

エア源が必要な空気圧グリッパに比べてコンパクトであるため、作業領域の省スペース化やAGV(無人搬送車)・走行ロボットに搭載する運用もおこなえます。ワークの把持位置測定やストローク調整の機能によって、ばら積みされたワークのピッキングにも対応できます。

電動グリッパと空気圧グリッパの比較

グリッパには、電動グリッパ以外にも空気圧グリッパがあります。選定の際には、それぞれの機能的特徴を理解することが大切です。ここでは空気圧グリッパの特徴を説明し、電動グリッパとの性能比較をします。

空気圧グリッパとは

空気圧グリッパはエアグリッパとも呼ばれ、空気圧によって把持力を調整するグリッパです。圧力計で空気圧を確認しながら、減圧弁(レギュレータ)を操作します。速度調整は速度制御弁(スピードコントローラ)でおこないます。工作機械への適用やワークの加工、ピックアンドプレースおよび組立作業などにおける産業用ロボットのグリッパに採用されています。

2爪や3爪、あるいは4爪以上のバリエーションがあり、平行開閉型と支点開閉型があるのも電動グリッパと同様です。

電動グリッパと空気圧グリッパの違い

空気圧グリッパは、減圧弁を開閉するだけの簡単な制御でも運用できます。また、構造も比較的単純なため安価です。電動グリッパが誤作動を起こす可能性がある高い湿度の環境でも、空気圧グリッパなら問題なく運用できます。しかし、把持力を安定させることが難しく、サイズの異なるワークの扱いにもあまり向きません。空気圧グリッパでは細かい制御が不可能というわけではありませんが、空気圧設計や圧縮空気システムが複雑になったりコストがかさんだりするのが難点です。

一方、モーターで動作する電動グリッパは、コントローラ制御によって精密にグリッパを操作できます。サイズや形状が異なるワークの把持も容易で、開閉幅の設定なども簡単に変更可能です。空気圧グリッパと違って、電動グリッパなら単体で高精度な位置決めもできます。多面取り付けが可能な電動グリッパを採用すれば、運用の自由度がさらに高まります。