OISとはどのような製品なのでしょうか。
OISは光学手ぶれ補正(Optical Image Stabilizer)の略で、写真や動画の手ぶれを補正するアクチュエーターです。当社製はレンズを動かす方式を採用しています
表1 手ぶれ補正の主な方式
方式 |
詳細 |
光学式 |
レンズシフト |
アクチュエータでレンズを手ぶれに追従させる |
モジュールチルト |
アクチュエータでカメラモジュールを手ぶれに追従させる |
電子式 |
センサーによる画像処理で手ぶれを補正する |
いくつかの方式があるのですか?
光学式には大きく分けて、レンズを動かすレンズシフトと、カメラモジュールを動かすモジュールチルトの方式があります。前者はサイズを薄くできる利点がある反面、原理的に収差※が避けられません。一方、後者は収差の劣化はありませんが、サイズが厚くなる傾向があります。また光学式以外には電子式があり、こちらはアクチュエーターを使わずにセンサーで画像処理を行うものです
※収差:写真機や望遠鏡、顕微鏡等のレンズ類による光学系において、レンズに入射する時の距離の違いによって起こる歪みのこと。
カメラに使われる部品なんですね。
元々、一眼レフやコンパクトデジタルカメラなどにはOISは搭載されていましたが、携帯電話のカメラには使われていませんでした。当時はちょうどフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行の時期で、小型化が市場から求められていましたので、どのようにスマートフォンに搭載できるサイズを実現するか悩みました
スマートフォン用のOISが世の中にない状況で、どのように開発を進めたのでしょうか?
溝の間に見える小さなレンズが光ピックアップ機構の一部
OISを成り立たせるためには、レンズを3軸方向(光軸、上下、左右)に動作させる機構が必要です。光軸方向に関しては当時すでに量産されていたオートフォーカス(AF)アクチュエータの機構をそのまま採用しましたが、残りの2軸方向をどのような機構にすべきかが課題でした。以前私たちはCDやDVD、ブルーレイディスクなどの光学ドライブの光ピックアップ用アクチュエーターを製造していました。CDなどの円盤は温度や湿度による反りのため面振れ※が生じたり、中央の穴の公差が大きかったりすることでディスクが回転する際に偏芯※が起こるのですが、光学ドライブの光ピックアップがそれらに追従するように動くことで音楽や動画が途切れずに再生されるのです。この技術を応用できないかと考えました
※面振れ:回転する円盤の面全体が軸方向に周期的に運動すること。
※偏芯:回転する円盤の軸中心がずれることで生じるずれのこと。
光ピックアップで培った技術を応用したレンズシフト方式で、スマートフォン向けの薄型かつ3軸駆動という新機構のOISを実現させたのですね。
モジュールチルトの試作品も作ってみたのですが、やはりサイズの問題でうまくいかず、最終的には光ピックアップの機構を90度回転するという発想をうまく設計に落とし込み、レンズ方式の3軸駆動を実現できました。CDやDVD、ブルーレイなどの光学ドライブの光ピックアップのアクチュエータをやっていた経験があったからこそ生まれた発想でしたね
図1 光ピックアップとOIS機構部の軸駆動
量産までは順調だったのでしょうか?
従来のAFカメラは1軸駆動、OISは3軸駆動ですので、制御するためのドライバICを新たに開発しなければなりませんが、当時スマートフォン向けでレンズ方式のOISは他にはありませんでしたので、このドライバICの開発と調達に苦労しました。従来にない製品ですから、どれほど売れるかの数字が全く読めなかったのです。しかし、ICメーカー様とは長くお付き合いがあったこともあり、ありがたいことに設備投資をいただけ、無事に量産に至ることができました。ただ、開発以外で大変だったことが他にありまして……
なんでしょうか……?
2年間上海に駐在したのですが、仕事や生活面は全く問題がなかったんです。ご飯も美味しかったですし……でも、一度だけ出勤前にトイレが逆流したことがあって(笑)。あれが最大のピンチでした
間違いないですね(笑)。最後に、OISの今後の展開を教えてください。
まだ具体的には申し上げられないのですが、スマートフォンのカメラの高性能化に貢献できるような製品の開発を進めていきたいですね。特に大口径のレンズに対応できる、高信頼性でタフなアクチュエーターです。またハイエンドのスマートフォンで採用されているペリスコープレンズで使えるようなアクチュエーターがあれば更にカメラ性能の向上に寄与できると考えていますので、そうした開発にも取り組んでみたいです
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