調理機器 ブレンダー
調理器具にも耐食性ベアリングが活用されています。たとえばブレンダーは食品の水分や特に柑橘系の果汁が発錆の要因となるため、ブレンダーの回転刃支持部に耐食性ベアリングが使われています。
海水(塩水)にさらされるフィッシングリールなどの釣り具や舶用製品、化学薬品などに侵食されやすい医療機器など、高い防錆・耐食性が求められる分野でもベアリングは広く活用されています。ここでは、ベアリングと錆の関係や錆発生のメカニズムを解説し、錆や腐食へのベアリングの工夫について紹介します。
一般的にボールベアリングでは、鉄に炭素やクロムなどを混ぜた合金である高炭素クロム軸受鋼を材料としており、錆の問題は切っても切り離せません。ベアリングに錆が発生した場合、ベアリングの回転不良や異音の発生を引き起こすだけでなく、錆が飛散し、周辺の部品や装置にも影響を及ぼすことで、機械全体の不具合や動作不良にまでつながります。
また、ベアリングの発錆リスクは使用時だけではありません。製造工程においても、皮脂の付着や湿度などが錆の原因となるため、洗浄などによる品質管理や厳重な施設管理が行われています。さらに製品輸送中、納品後の保管まで、ベアリングの管理や取扱いは常時、腐食に注意しておかねばならず、こうした状況からも、耐食性ベアリングの需要が高まっています。
錆対策として最近では、従来の軸受用ステンレス鋼材に加え、耐食性をさらに高めた新素材の開発も進められています。こうしたベアリングは発錆しやすい過酷な環境でも、通常のベアリングに比べ錆びにくく、ベアリングの交換頻度・コストの低減や、最終製品の付加価値向上を実現します。
そもそも、なぜ錆が発生するのでしょうか?軸受鋼にも含まれる鉄を例に、そのメカニズムを紹介します。
鉄(Fe)の原料である鉄鉱石には元々酸化物が多く含まれており、酸化鉄(FeOなど)として地球上に存在しています。こうした酸化鉄から酸素を取り除くことで、人工的に鉄を取り出しています。そのため、鉄はしばらくすると再び酸素と結びつき、元の酸化鉄へと戻ろうとします。このように鉄が元の状態に戻ろうとすることで錆が発生します。
次に錆が発生する際、どのような化学反応が起こっているのか、原子や電子の動きについても解説します。
鉄は「原子(Fe)」と「自由に動き回れる自由電子(e-)」とで構成されています。自由電子は原子同士を結び付ける役割をしており、これにより安定した状態が保たれています。
鉄の表面に水分が吸着すると、水分に空気中の酸素が溶け込み、いくつかの自由電子が水分の方へと取り込まれます。
自由電子を取り込んだ水分は化学反応を起こし、OH−(水酸化物イオン)に変化します。一方、鉄は自由電子を失い、Fe2+(二価鉄イオン)に変化します。
Fe2+(二価鉄イオン)はさらに自由電子を奪われ、Fe3+(三価鉄イオン)へと変化します。
Fe3+(三価鉄イオン)とOH−(水酸化物イオン)がイオン結合し、Fe(OH)3(水酸化鉄(Ⅲ) )となります。
最終的にH2O(水分)がなくなり、Fe2O3(酸化鉄)、つまり錆となります。
前章の通り、軸受鋼に含まれる鉄には錆びやすい性質がありますが、水・塩水にさらされるなどより厳しい環境で使用する場合には、軸受鋼にクロムをさらに含ませたステンレス鋼や新たな素材を選ぶといった選択肢があります。
鉄にクロムを添加した合金である「ステンレス鋼」は、自然に組成される不動態皮膜と呼ばれる酸化皮膜により、通常の高炭素クロム軸受鋼に比べ耐食性があります。
ミネベアミツミでは独自に開発したステンレス鋼「DD400」材を使用しており。本材料はASTM*-A380に基づく試験の結果、耐食性において「DD400」は軸受に一般的に用いられるステンレス鋼である「SUS440C」と同等の評価が得られました。また「SUS440C」に比べて焼き入れ硬さが高く、寿命や耐荷重性にも優れています。
一般的な鋼材に比べ、錆に強いとされるステンレス鋼ですが、防錆・耐食性をさらに強化する手段として、部材に特殊な表面処理をほどこす方法があります。ただし、この方法では多くの手間がかかることに加えて、過酷な環境下では腐食を防ぎきれないという課題もありました。そこで、さらに高い防錆・耐食性を追求した新素材のベアリングが開発されています。
ミネベアミツミの「Giga Protection®」シリーズは、特殊な鋼材の採用により、当社標準ステンレス鋼ベアリングに比べて500倍以上の防錆・耐食性を実現しました。こうした新素材のベアリングは海水や薬液などにさらされる厳しい環境での活用が期待されています。
中性塩水噴霧試験(JIS Z 2371)2019年7月実施
耐食性に優れたベアリングがどのような分野で活用されているのか、その事例について紹介します。
釣り具ではスプールやラインローラーなど、各種回転部の支持に耐食性ベアリングが活用されています。
海水に常にさらされるフィッシングリールは錆を防ぐのが難しく、回転フィール(リールを回した時のなめらかで軽快な感触)を維持するためには、使用者自身による使用後の細かなメンテナンスが必要です。しかし、使用後に毎回メンテナンスを徹底することは難しく、結果的に錆が発生してベアリングを頻繁に交換する必要があるなど、使用者にかかる負担が大きくなっていました。また、趣味で使われることが多いフィッシングリールは、錆により美観性が損なわれる点も大きな課題でした。
これまで高炭素クロム軸受鋼よりも錆に強いステンレス製ベアリングを採用していたものの、海水を浴びる過酷な環境下では依然としてこまめなメンテナンスやベアリングの交換は必要でした。そこで、ステンレスに比べて防錆・耐食性がさらに向上した「Giga Protection®」シリーズのベアリングを採用したことで、使用者のメンテナンス負担が大幅に軽減され、美観も長く保てるなど、より付加価値の高い製品開発につながっています。
生理食塩水、唾液や血液などの体液、薬液などにさらされる医療機器分野においても耐食性ベアリングの需要は高く、主に歯科用デンタルハンドピースのエアータービン部回転支持などで活用されています。
歯科用デンタルハンドピースは耐食性が要求される時間は短いものの、患者の口腔内で使う医療器具のため確実な動作や材質の変質・劣化も許されない厳しい要求があります。そのため、錆により不具合が発生した場合はもちろん、ほんの少しの発錆でも必ず交換しなければならず、交換によるコスト負担が大きな課題となっていました。
従来は、高炭素クロム軸受鋼よりも錆に強いステンレス製ベアリングを採用していました。しかし、腐食性物質である生理食塩水や各種薬液とともに扱われることや、高温・高圧による消毒を高い頻度で繰り返す特殊な使用条件においては、期待通りに錆を防ぐことは困難でした。そこでステンレスに比べて防錆・耐食性をさらに向上させた「Giga Protection®」シリーズのベアリングを採用。新素材のベアリングを採用したことで、錆や腐食を長期間防ぎ、ハンドピースの交換頻度を軽減するとともに、より安全性の高い製品づくりを実現しました。
調理器具にも耐食性ベアリングが活用されています。たとえばブレンダーは食品の水分や特に柑橘系の果汁が発錆の要因となるため、ブレンダーの回転刃支持部に耐食性ベアリングが使われています。
雨水や農薬などにさらされるドローンでも耐食ベアリングが活用されており、主に推進用プロペラモーターの支持やカメラジンバルモーターの支持に使われています。
ベアリングの耐食性を向上させるためには、素材の工夫が必要であることを紹介しました。フィッシングリールなどのレジャー用品から、人々の健康を守る医療機器、身近な調理器具、省人化に期待されるドローンにいたるまで、耐食性ベアリングは幅広い用途で活用されており、錆や腐食を防ぐことは各製品の長寿命、メンテナンスの負担軽減、コスト削減など多くのメリットをもたらしています。今後は、自動車のスライドドアや水素自動車の水素循環ポンプなどへの活用も期待されており、耐食性ベアリングの用途はより広がっていくことでしょう。
ミネベアミツミでは多様なベアリングをご用意しており、課題やニーズに合わせたベアリングのご提案が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。