MinebeaMitsumi Bearings Room

ベアリングは回転することで熱が発生することはもちろん、自動車のエンジンルームなど200℃を超える過酷な高温環境下で使用されることもあります。
ここでは、ベアリングへの熱の影響や、高温環境で使用されるベアリングにどのような工夫がされているのかについてご紹介します。

ベアリングへの熱の影響

一般的なベアリングは高温にさらされることで、潤滑剤の劣化や金属の硬度低下などが起こり、ベアリングの寿命が短くなります。特に潤滑剤は熱に弱く、高温環境下で酸化や基油の粘度低下、揮発などが起こり、結果として内輪・外輪と転動体に油膜破断が発生することで、ベアリングの異音や回転不良にもつながります。また、シールや保持器の材質によっては高温環境下で物性を維持することが難しく、硬化や軟化、亀裂の発生による劣化で十分な性能や目的を達することができなくなります。

このように、ベアリングにとって熱は大敵であり、高温環境下で使用する場合は耐熱対策は必要不可欠です。

油膜切れのしくみ
油膜
グリースによる油膜で、金属接触による摩擦や摩耗を軽減している状態。

グリースの揮発で油膜が破断し、摩擦や摩耗が発生することで、ベアリングの異音や回転不良につながる。

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耐熱ベアリングの需要

特に耐熱性が求められるのは、ICE(内燃自動車)*やHEV(ハイブリッド自動車)、EV(電気自動車)などの自動車向けのベアリングです。エンジンのバルブなどに使われるベアリングは、約200℃近くの高温に長時間耐え続ける必要があるため、非常に高い耐熱性が要求されます。その他、オーブンや電子レンジといった熱をもちやすい家電製品から航空宇宙に至る幅広い分野において耐熱ベアリングが活用されています。

ICE:Internal Combustion Engine(インターナル・コンバッション・エンジン)の略。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンで動く車の内燃機関のことを指します。

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ベアリングの熱対策

高い耐熱性を実現するため、グリースやシールの材質を工夫した「耐熱ベアリング」の開発が進められています。

グリースの工夫

グリースは増ちょう剤に金属石けんを用いた石けん(リチウムなど)系と金属石けんを用いない非石けん(ウレアなど)系に大別されています。ベアリングの早期損傷を防ぎ、性能を発揮させるためには、温度環境や要求性能に応じてリチウム石けんグリース、ウレアグリース、フッ素グリースなどから適切なものを選定することが重要です。ミネベアミツミでは、独自に開発・配合したグリースで、耐熱性とトルクや寿命の両立を実現しています。

グリースの種類と温度
ミネベアミツミにおける潤滑剤の種類
グリースの種類 増ちょう材 基油主成分 当社
コード
特性 使用温度範囲*
リチウム石鹸
グリース
Li石けん エステルなど LY121 汎用 -50℃~+150℃
LY72 低トルク -50℃~+130℃
ウレアグリース ウレア 合成炭化水素 LY551 耐熱性、高速性 -40℃~+200℃
エステル LY706 耐熱性 -40℃~+180℃
フッ素グリース PTFE フッ素 LY500 耐熱性 -50℃~+260℃
LY586 耐熱性 -65℃~+220℃
LY699 耐熱性、低トルク -50℃~+220℃
フッ素
+エステル
LY655 耐熱性 -40℃~+200℃
導電性グリース カーボン系 合成炭化水素 LY764 導電性 -40℃~+120℃
フッ素 LY768 導電性、耐熱性 -30℃~+260℃
オイル エステル LO1 低トルク -57℃~+177℃
合成炭化水素 LY650 耐樹脂性 -40℃~+130℃

使用温度範囲は、潤滑剤メーカーのカタログ値で、 軸受の使用可能温度範囲ではありません。
(メーカーにより設定方法も異なりますので参考程度としてください。)

シールの工夫

耐熱性を高めるためには、シールの素材にも工夫が必要です。高温環境で使用する場合、シールには一般的なゴム材に比べて耐熱性に優れた耐熱ゴムシールを使用します。また、ゴムの種類も数多くあり、それぞれ使用温度範囲にも違いがあるため、環境温度に応じて最適なゴム材を選定することが重要です。

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耐熱ベアリングの活用事例

耐熱ベアリングがどういった用途で使われているのか、製品の活用事例についてご紹介します。

ラジエーター冷却用ファンモーター

自動車・オートバイのエンジンや、EVトラクションモーター、ECU、二次電池などを冷却するラジエーターの冷却用ファンモーターに耐熱ベアリングが使用されています。冷却用ファンモーターは、ラジエーターに外気を当て、冷却水の温度上昇を抑える重要な役割を担っています。

【課題】

冷却用ファンモーターは熱源となるエンジンやラジエーターに近接しており、周辺は時として200℃を超えるほどの高温になります。運転中、常に高温にさらされ続ける過酷な環境下で連続回転するため、ベアリングには高い耐熱性が必要でした。また、ラジエーターには砂塵や泥水などの異物が侵入する可能性もあるため、耐熱性だけでなく、異物の侵入を防ぎながら安定的に回転させることも課題でした。

【対策】

従来のラジエーター用ベアリングには、PTFEを増ちょう剤としたフッ素グリースや、ウレアを増ちょう剤としたウレアグリースが使われていました。フッ素グリースは増ちょう剤のPTFEにより耐熱性は向上しましたが、潤滑性に劣るため、ベアリングの寿命を延ばしにくいというデメリットがありました。一方でウレアグリースは潤滑性に優れているものの、増ちょう剤のウレアの特性上、フッ素グリースの耐熱性には及びませんでした。
そこで、耐熱性と潤滑性の両立を目的に、フッ素グリースにオイル(エステル、合成炭化水素など)、増ちょう剤(ウレアなど)を混合したハイブリッドタイプのグリースを新たに開発し、ベアリングに採用。冷却用ファンモーターの早期損傷を防ぐことができ、オーバーヒートの抑制やファンモーター交換にかかるコストや手間の削減にもつながりました。さらに、耐熱性のゴムシールが砂塵や泥水などの異物侵入も防いでくれるので、モーターの故障率が下がり、長寿命化が実現できました。

ターボチャージャー

ターボエンジンに搭載されているターボチャージャーに耐熱ベアリングが使用されています。

  1. A:ターボチャージャー
  2. B:高耐熱性ボールベアリングユニット

【課題】

これまでターボチャージャーの多くは過酷な環境に強いオイル潤滑ベアリングが採用されてきました。しかし、オイル潤滑ベアリングはその構造上、加速時の摩擦抵抗が大きく、応答性がボールベアリングに比べて劣るため、加速時に必要以上にアクセルを踏み込むと燃費効率の低下してしまう、といった課題がありました。

【対策】

複数の素材のパーツを組合わせることで高い耐久性・耐熱性を実現した、高耐熱性ボールベアリングユニットを採用。内輪・外輪に航空機用ジェットエンジンの主軸受にも用いられる素材を使用することで高温環境に対応しました。保持器に特殊な表面処理を施すことで回転効率も向上し、発熱量を抑えた高速回転を実現しました。また、ベアリングをユニット化することで、組込み負担の軽減だけでなく、エンジンユニットのダウンサイジングによる小型化へも対応できました。

エンジン出力効率化を支えるターボチャージャーにも貢献 ─ミネベアミツミのベアリング/メインシャフト
製品紹介動画

まとめ

高温に対応するためには、グリースの選定やシールの素材に工夫が必要であることを紹介しました。耐熱ベアリングは自動車のエンジンをはじめ、航空機、鉄道など社会のインフラを支える重要な役割を担っており、将来的には宇宙開発においても存在感を示すことが予想されます。今後は地球上では想像できないような過酷な環境下にも対応できるよう、より一層の耐熱性の向上が求められており、耐熱ベアリングの開発にさらなる期待が寄せられています。

ミネベアミツミでは多様なベアリングをご用意しており、課題やニーズに合わせたベアリングのご提案が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。

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