ベアリングと騒音
ベアリングは回転によって必ず回転音が発生し、用途や使用環境によっては高い静音性が求められます。
ここでは、ベアリングと音の関係について解説し、異音・騒音の発生原因、低騒音のための工夫や活用事例について紹介します。
ベアリングと音の関係
ベアリングが回転する際には「回転音」と呼ばれる音が発生します。一方、衝撃などの荷重に起因するブリネル圧痕や異物侵入によって正常な回転音とは異なる「異音・騒音」が発生する場合があります。こうした異音や騒音は、ベアリング損傷の予兆でもあります。また、音と同時に発生する振動が筐体や周辺機器に悪影響を及ぼす場合もあるため、音の変化に気づいたら、すぐに対処することが重要です。
また、正しいベアリングの選定・使用方法であっても、長く使い続けるうちに経年劣化によって回転音がだんだんと大きくなり、異音・騒音が発生する場合もあります。
なお、共振による異音や保持器の自励振動音については、ベアリング単体の工夫だけでなく、ベアリングを取付ける際のハウジングやシャフトとの組付け方、筐体との相性にも関係します。設計の際には、このような観点での配慮も必要となります。
ベアリング使用時の異音・騒音発生の原因
ベアリングの異音・騒音がどういった場合に発生するのか、原因別に解説します。
ブリネル圧痕
固形異物の侵入や噛み込み、落下やミスアライメントによる予期せぬ過負荷がかかった場合など、ベアリングに何らかの衝撃が加わることで、転動体や転走面(レース面)が塑性変形してくぼみが生じます。これを「ブリネル圧痕」と呼び、異音発生の原因となります。ブリネル圧痕を防ぐには、衝撃などの過負荷に関する取扱い方法の見直しなどが対策として挙げられます。
異物侵入
ゴミや砂塵などの異物がベアリング内部に侵入した場合、転動体と転走面(レース面)の間に噛み込み、キズができることで異音が発生します。ブラシ付きモーターのブラシが削れた場合などに生じる摩耗粉も異物の一種であるため、特に注意が必要です。
電食
ベアリングに使われるグリースは一般的に絶縁性をもっていますが、何らかの原因でベアリングに電気が流れてしまった場合、スパークが起き、転走面(レース面)が溶融します。溶融により内輪・外輪の表面に小さなピット(穴)や筋状の凹凸が生じることで異音が発生します。電食の発生を防ぐためには、転動体の材質を絶縁性の高い素材に変更するといった対策が必要です。
予圧不足
- :アキシアル荷重(予圧)
- :軸
予圧をかけて内部すきまをなくすことで、軸心のブレが少なくなります。
ベアリングを使用する上で、予圧の設定は非常に重要な要素です。ベアリングの予圧が不足していると、内輪・外輪と転動体との間に隙間が生じ、転動体の遊びが大きくなることで騒音につながります。予圧不足が考えられる場合は、荷重・回転条件などから予圧量の見直しを行う必要があります。
予圧…荷重によって生じる軸受の変位・変形、軸振れ、衝撃などを抑えるために、あらかじめ軸受に加えるアキシアル荷重のこと
ミスアライメント (軸受の組込誤差)
- A:センターずれ
- B:傾き
他の部品や筐体に軸受を組み込む際の精度が十分でない場合や、シャフトやハウジングに異物が付着したことが原因で、軸やハウジングとの角度誤差やセンターずれを起こすことをミスアライメントと呼びます。ミスアライメントにより軸が振れることで、異音や騒音が発生したり、ベアリングに過負荷がかかることで、早期故障の原因にもつながります。
ベアリングの低騒音化に向けた工夫
ベアリングの異音・騒音発生の要因をできるだけ取り除くために、ベアリングにはさまざまな工夫が施されています。ここではベアリングへの異物侵入や通電などを防ぐ工夫について紹介します。
ゴムシールによる異物侵入防止
異物侵入を防ぎたい場合は、鋼板シールドに比べて、より密封性の高いゴムシールを使用します。ゴムシールには接触タイプと非接触タイプがあり、接触タイプの方が高い防塵性を期待できますが、摩擦トルクが大きくなるデメリットがあります。ラジエーターなど、防塵性・防水性を最優先したい環境には接触タイプが適しています。
ミネベアミツミでは、異物対策と起動・回転トルクとのバランスを取った専用ゴムシールをご用意しています。
非接触タイプ
より密閉性が高い
セラミックボールによる電食対策
ベアリングの通電を防ぐためには、電流が流れない、もしくはスパークさせない対策が必要です。そこで、転動体の素材を絶縁体のセラミックに変更します。セラミック特有の限りなくゼロに近い導通性(絶縁性能)により、軸受内を通電することで発生する電食の対策として有効です。絶縁性をもつ素材への変更により、ベアリング周辺の部品や機器の設計はそのままに電食の発生を防ぐことができます。
また、強度・耐久性に優れたセラミックを使用することで、良好な音響性能だけでなく、長寿命化も実現できます。
スチールボール
予圧不足やミスアライメント回避
振動・騒音の低減などを目的に、ベアリングにあらかじめ加える荷重のことを「予圧」といい、ベアリングを使用する際には用途や要求性能に合わせた適切な予圧量と予圧方法を選ぶことが重要です。予圧量が不足していると、フレッチングやブリネル圧痕が生じ、異音・騒音につながります。ただし、適性な予圧量の設定は容易ではなく、予圧のかけ方や組付けには専門的な知識やノウハウが必要となります。
ミネベアミツミでは、ベアリングのプロとして培った専門的なノウハウで高精度な組立を行い、適正な予圧を与えた状態で納品する「プレシジョン・メカニカル・アッセンブリー(PMA:Precision Mechanical Assembly)」を提供しています。これにより予圧不足や、ミスアライメントによる騒音を回避できます。
製造工程における加工精度の向上
ボールの真円度や真球度、転動面の滑らかさ、適切な潤滑剤の選定など、製造工程において精度を追求することでベアリングそのものの音響性能を向上させることが可能です。ベアリング自体の回転音を最小限に抑制することで、低騒音化が期待できます。精度を追求することは、摩耗の発生や騒音の発生を抑えるだけでなく、ベアリングの長寿命化にもつながります。
低騒音ベアリングの活用事例
暮らしの中で身近に使われる生活家電や換気扇など、用途や使用環境によってベアリングは高い静音性を求められます。ここでは低騒音ベアリングの活用事例を紹介します。
換気扇・扇風機・空気清浄機モーター・エアコン室内外機モーター
換気扇や扇風機、空気清浄機などに搭載された送風用途のモーターに低騒音ベアリングが使われています。
【課題】
生活家電や換気扇は人々の暮らしに密接した製品であるため、静かであること、もしくは耳障りに感じない程度の運転音であることが条件となります。昨今では、モーターを使う家電や住環境の中での空調設備が増え、音に対する意識はさらに高まっています。特に夜間も運転させるエアコンや空気清浄機は静音性が必須条件となっています。
【対策】
生活家電や換気扇では、ベアリングからモーターに振動が伝わり、共振して騒音につながるなど、ノイズの多くはベアリングに起因しています。そのため、製品自体の静音性を高めるためには、ベアリングへの異物侵入を防ぎ、異音発生の原因を取り除くことがカギとなります。ただ、防塵・防水性を高めるためシールで密封すれば、摩擦トルクが大きくなるといった問題もありました。そこで、異物侵入対策と回転時の起動トルク低減を両立したゴムシール付のベアリングを採用。トルクを抑えながらも、塵やほこり、黄砂などの侵入を防ぐことで、ベアリングの音響性能が向上し、製品の静音性を高めることができました。
自動車のHVAC用ブロワファンモーター
自動車のHVAC(空調制御システム)における送風用途のブロワファンモーターに低騒音ベアリングが使われています。
【課題】
ブロワファンモーターは、車の室内で回転するため低騒音である必要があります。特に冬場においては、外気温の低下によりグリースの流動性が低下することで、特有の異音が発生してしまうといった課題がありました。
【対策】
ブロワファンモーターは外気を取り込むため、塵やゴミの侵入が課題となります。そこで、異物侵入対策としてゴムシール付のベアリングを採用。さらに、保持器のボールポケット形状の改善により大きな課題であった冬場の異音発生も解消。また、ベアリングの内輪・外輪の転走面(レース面)が非常に滑らかに加工されていることで、正常運転時の回転音も軽減でき、快適な車内環境づくりに貢献できました。
まとめ
ベアリングは衝撃による過負荷、異物侵入、電食などでキズや穴が生じ、それが異音・騒音につながることを紹介しました。ベアリングの音響性能を向上させるためには、異物侵入対策、セラミック素材による電食対策、適性な予圧量などが重要です。ただし、モーターや生活家電はベアリング以外にもさまざまな機械部品で構成されており、製品の静音性を高めたい場合は、ベアリングの選定はもちろんのこと、各機械部品の精度、使用環境や組込み作業など幅広い視点で音響性能を確認していくことが大切です。
ミネベアミツミでは多様なベアリングをご用意しており、課題やニーズに合わせたベアリングのご提案が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。