MinebeaMitsumi MEMS Room

省エネを支えるMEMS技術

これまで省エネが推し進められてきた背景には、「将来的な天然資源の枯渇に対する危機感」がありました。近年では、温室効果ガスの削減や脱炭素といった地球温暖化対策の観点や、不安定な国際情勢におけるエネルギー安全保障への懸念も加わり、各国の省エネへの取り組みは一層強まっています。ここでは省エネが叫ばれ続ける状況下でもなお増え続けるエネルギー消費量のうち電力に注目し、省エネに求められることや、さらに高い目標を達成するために重要な役割を担うMEMS技術について紹介します。

時代で変わる省エネ

世界のエネルギー需要は原料となる一次エネルギーはもちろん、最終エネルギーともに増加の一途をたどっています。中でも、今後世界的な脱炭素化が進むことでますます需要が高まるとされている電力消費の割合は、現時点においても世界的に増加を続けており、とりわけ経済成長の著しい中国・インドでの消費量は急激な拡大をみせています。

一部の国と地域における総最終エネルギー消費量に占める電力の割合
(2000年から2020年)
ここでの中国には、中華人民共和国と中国の香港が含まれます。

出典:IEA, Share of electricity in total final consumption in selected countries and regions, 2000-2020, IEA, Paris IEA. Licence: CC BY 4.0

また近年では、地球温暖化の影響によるエアコンなどの空調設備(HVAC機器)における電力消費量の増加も問題視されています。
IEA (International Energy Agency)の発表によると、エアコンなどによる空間冷却が占める電力需要は2050年までに3倍になると予想されており、これは電力需要の増加における37%にも及びます。また、エアコンが普及することで電力消費量だけではなく、温室効果ガスの排出量の増加も問題となります。HVAC機器には高い省エネ性能と温室効果ガスの低減が求められており、こうした性能を備えた製品の普及がより一層重要となります。

2050 年までの世界の電力需要の伸びに占める割合
  • A:空間冷却37%
  • B:住宅設備25.5%
  • C:ライティング7.8%
  • D:加熱12.4%
  • E:その他のサービス17.4%

出典:IEA, Share of global electricity demand growth to 2050, IEA, Paris IEA. Licence: CC BY 4.0

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HVAC機器の省エネに必要なもの

HVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning)機器の省エネを達成するためには、エネルギーを適切に管理し、効率よく使用することが重要です。また、エネルギー消費量の抑制に加え、地球環境に配慮した素材を活用するなど、新しい技術の開発や導入も必要となってきます。ここではHVAC機器が効率よくエネルギーを使用するために取り入れている最新のセンシング技術や、新技術を支えるMEMSの活用について紹介します。

エネルギー消費を抑えるためのセンシング技術

省エネとして使われる代表的な技術に、インバーターがあります。インバーターを搭載することでエネルギーロスを低減させ、誤動作や停止を防ぎ安定した出力供給を可能とします。インバーターはさまざまな家電に搭載されていますが、ルームエアコンでのインバーター化率は高く、世界的にみても、現在に普及しているエアコンの約80%がインバーター搭載機であるとされています。

そこでエアコンのさらなる省エネ化を目指し、センシング技術に注目が集まりました。現在では、IRセンサーを搭載することで、人が居るエリアを検知して集中的に冷暖房をする機能などが開発され、エネルギーの無駄をなくした効率的な機器の稼働に貢献しています。
また、エアコン以外のHVAC機器では、ガスセンサーにより空間のCO2濃度を検知して換気量を自動制御する熱交換換気装置や、本体からセンサーを分離させて離れた場所をセンシングし効率的に稼働する空気清浄機などがあります。これらの機器に搭載するセンサーにはMEMS技術が活用されており、今後もMEMSセンサーは省エネを実現する上で、重要なピースになると予測されています。

新技術とMEMSセンサー

エアコンをはじめとするHVAC機器には、エネルギー効率の高いヒートポンプ技術が用いられます。ヒートポンプでは空気の熱をくみあげ冷却や加熱を行う際に冷媒が使用されており、その媒体にはフロンガスが活用されています。
現在、世界で冷媒に使用されているフロンガスには、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン/特定フロン)*1とHFC(ハイドロフルオロカーボン/代替フロン)*2があります。冷媒を使用することで効率よく熱を運べる一方で、フロンガスは環境負荷が高いため、規制が進められると同時に新たな冷媒の開発が行われています。その1つにR32という新冷媒があります。R32はHFCの一種ではあるものの、オゾン破壊係数は0となっており、地球温暖化係数も675と従来型の冷媒の3分の1に抑えられています。そのため現時点で使用可能な冷媒の中でもバランスの良いフロンガスとして安定した需要があります。

一方でR32は可燃性があるため、適切に使用することも大切です。そこで安全に使用・制御できるようMEMSセンサーが活用され、冷媒を使用するエアコンや空調システムの信頼性を高める機能に役立てられています。

  1. HCFCは「モントリオール議定書」により先進国の間で2020年までに全廃が決定
  2. HFCについては「モントリオール議定書」により2019年から先進国での削減を義務化

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省エネとMEMSの今後

省エネは、今や世界的な環境問題です。日本政府は2050年に脱炭素化(カーボンニュートラル)を宣言し、地球温暖化への積極的な取り組みが産業や社会への変革をもたらし、次の大きな成長につながるとしています。

また欧米では、住宅や建築における省エネの取り組みが進んでおり、冷暖房・換気・給湯・照明といった設備で省エネ基準が設けられています。そのため、欧米の各国ではこの基準に適合するため、新築の住宅はもちろん、省エネ性能の低い住宅の改修も行われています。

新興国においても、さまざまな省エネ対策が取られています。中国では第14次5カ年計画として、省エネ・炭素排出削減に関する主要目標や10大重点プロジェクトを2022年1月に提示しました。またインドでは2001年に省エネルギー法が制定されており、2006年5月には家庭用電気製品を対象とした省エネラベル制度を施行するなど早い段階から省エネに取り組んでいます。

このように脱炭素・省エネの実現に向けた取り組みは、国や地域により方針に違いはあるものの確実に広がりをみせています。
MEMS技術が省エネで注目される理由には、小型化に優れる点が挙げられます。
従来のセンサーをMEMS化することで、小さな部品であっても、さまざまな機能を搭載でき、機器そのものが小さくなることで使用する電力を抑えることに役立てられています。このように省エネという困難な課題の解決に向けて、さらなるMEMS技術の活用が期待されています。

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