MEMSを支える技術
MEMSはスマートフォンをはじめ、さまざまなデジタル製品の中に搭載されています。製品の小型化や省電力化を支える、MEMSの製造に関わりの深い技術の一部を紹介します。
マイクロマシニングとは
「マイクロマシニング」とは、半導体加工技術を使い、MEMSを構成する構造体やセンサー、アクチュエーターなどの複雑な立体構造を基板上に作り込んでいく加工技術です。
その手法として、「表面マイクロマシニング」と「バルクマイクロマシニング」の2つがあります。
MEMSの技術
表面マイクロマシニング
表面マイクロマシニングは、基板の上に層を積み上げるようにして立体構造を作っていく手法です。後に取り除くことになる、犠牲層というスペーサーを形成し、梁のような構造体を作成していきます。この方法は、電子回路を載せた集積化MEMSの製造で用いられています。
比較的壊れにくい構造体であるものの、犠牲層を取り除く際、使用する薬剤やガスによっては、構造体が引き寄せられて基板に張り付いてしまうといった課題もあります。
バルクマイクロマシニング
バルクマイクロマシニングは、結晶異方性エッチングをはじめとした技術を活用してウエハを深く削り、さまざまな機械要素の構造を作成する手法です。薬剤を使用して基板を彫り込んでいく加工がまず開発されました。その後シリコンを垂直に掘り進めることができる手法が発明されたことにより、さらに自由度の高い加工が可能になりました。
自由度の高い加工ができる一方で、破損しやすいというデメリットが今後の課題といえます。
MEMSの製造に使われている主な技術
MEMSの製造には、一般的な半導体や集積回路ではあまり使われていない技術がいくつもあります。ここでは特徴的な技術について解説します。
結晶異方性エッチング
シリコンの結晶はダイヤモンドのような構造をしており、その結晶面はそれぞれ結合が異なっています。「結晶異方性エッチング」は、この違いを利用してさまざまな形状を作成する技術です。
結晶異方性エッチングは、シリコン基板の結晶面に沿ってアルカリ水溶液で深く溶かして削っていきます。特殊な製造装置が不要なため、幅広く利用されています。
マスクパターンに従って狙いどおりの形状を作成できるため、精密な加工をしたい場合に多用されている手法でもあります。
等方性エッチング
「等方性エッチング」とは、垂直方向に加え水平方向にもエッチングが進み、レジスト直下の膜が台形になるエッチングの手法です。
等方性エッチングでは、フッ酸(HF)と硝酸(HNO3)を混ぜ、フッ硝酸を酢酸で希釈したエッチング液を使用します。エッチング液の濃度やフッ酸の混合比率、温度などによってエッチング速度を制御します。安価な装置で実施できること、複数のウエハへの一括加工などができるといったメリットがあります。
等方性エッチングは薬液やガスにより、どの方向からもエッチングできるため、犠牲層を取り除く際によく使用されています。
陽極接合
「陽極接合」は、ガラスとシリコン基板の研磨した面を重ね、加熱しながら電圧をかけることで強く結合できる手法のことです。大気中で実施でき、接合温度が低く寸法変化も少ないことから、MEMSの立体構造の作成や接合技術として広く利用されています。
近年MEMSを含めた半導体部品はさらなる高性能化を実現するため、より高密度な実装のため、チップ等を3次元に積層することが進められています。陽極接合はMEMSのパッケージ化や異素材との接合にとどまらず、MEMSの高性能化を支える積層技術の1つとしても活用されています。