パワー半導体とは?
仕組みや特徴、用途をわかりやすく解説
パワー半導体とは、高速スイッチングにより電力の変換を行うデバイスのことです。特に近年は、電気自動車(EV)のモーターや太陽光発電といった分野での利用が目立つとともに、用途の拡大に応じて新素材を活用した製品も登場しています。
この記事では、半導体とパワー半導体の違いをご紹介するとともに、パワー半導体の特徴、分類ごとの特性や用途、今後の展望などについてわかりやすく解説します。
1. 半導体とパワー半導体の違い
半導体という言葉はよく耳にすると思いますが、半導体とパワー半導体にはどのような違いがあるのでしょうか。半導体とパワー半導体の歴史を追いながら、2つの違いを解説します。
半導体:導体と絶縁体両方の性質を持つ素材、およびそのような素材から作られた電子部品のこと
半導体とはその名のとおり、電気を通す導体とほとんど通さない絶縁体の両方の性質を持つ素材のことです。また、そのような材料から作られた電子部品のことも半導体と呼びます。
電子部品としてダイオードやトランジスタ、これらの部品を無数に組み合わせたIC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)も半導体のひとつであり、材料は主にシリコンです。半導体は1947年に米国で発明され、1950年にシリコン製のトランジスタが開発されたことで量産への道が開かれました。
パワー半導体:高電圧や大電流を扱える電子部品のこと
パワー半導体とは、電源などの電力の制御や変換を行う電子部品のことで、高電圧や大電流を扱えることから「パワー」の名がついています。半導体の主な役割が、演算や記憶 、信号処理といった情報処理であるのに対し、パワー半導体の主な役割は電源や電力の供給・制御・変換などです。パワー半導体は高電圧や大電流を扱えるため、一般的な家電はもちろん、電気自動車(EV)のモーターやバッテリー、太陽光発電などにも利用されています。
パワー半導体の起源は、1950年代に開発されたICだといわれており、1960年代に入ると量産化が始まりました。1970年にはトランジスタの一種であるMOSFETが登場、1980年代にはMOSFETをベースにしたIGBTが開発されるなど、高効率かつ高耐久性を誇るパワー半導体が実用化されています。
2. パワー半導体の特徴
定格電流1A以上を扱える半導体をパワー半導体と呼ぶことがあります。もしくは1W以上の電力を扱えるものをパワー半導体とする考え方もありますが、パワー半導体としての明確な定義はありません。
パワー半導体の最大の特徴は、高電圧や大電流を扱えることです。そのほか、動作時の電力損失が少なく、発生熱を逃がしやすい設計にできるため、省エネ・省電力に役立つことも挙げられます。
パワー半導体にはさまざまな種類があり、スイッチングを行わない「ダイオード」、高速スイッチングを行う「パワートランジスタ」などがその一種です。
3. ダイオードの基本原理と分類
ダイオードは、電気の流れを一方通行にする役割を持ち、整流や逆流防止といった特徴や機能を持つパワー半導体です。ここでは、ダイオードの基本原理と分類について解説します。
ダイオードの基本原理
ダイオードは、構造の違いから「PN接合ダイオード」と「ショットキー接合ダイオード」の2つのタイプに分けられます。それぞれの詳細は、下記のとおりです。
PN接合ダイオード
PN接合ダイオードは、正孔(ホール)をキャリアとするP型半導体と、自由電子をキャリアとするN型半導体という、異なる2つの半導体同士を接合したものです。なお、P型は「Positive」、N型は「Negative」に由来しています。
P型半導体にはアノードという端子が、N型半導体にはカソードという端子があります。PN接合ダイオードはアノードからカソードに流れる電流のみを通すという特徴を持ち、カソードからアノードには電流はほとんど流れません。このような特徴から、PN接合ダイオードは一定方向のみに電流を流す、交流を直流に変換するといった整流作用を実現しています。
ショットキー接合ダイオード
ショットキー接合ダイオードは、半導体と金属を接合する構成です。ショットキー接合ダイオードは、金属の種類や性質を変えることで一定方向に電流を流したり、本来は流れるはずのないリーク電流を調整したりすることができます。
ダイオードの分類
ダイオードのPN接合ダイオードは、さらに「整流ダイオード」「ツェナーダイオード」「TVSダイオード」「PINダイオード」などに細分化されます。一方、ショットキー接合ダイオードは、「ショットキーバリアダイオード」が主な種類です。
なお、PN接合ダイオードを「バイポーラ」、ショットキー接合ダイオードを「ユニポーラ」と呼ぶことがあります。バイポーラ(Bipolar)は2つ(Bi)の極性(Polar)、ユニポーラ(Unipolar)は単一(Uni)の極性(Polar)という意味で、ダイオードに限らず半導体の構造や分類などを説明する際によく使われる言葉です。
4. ダイオードの特性と用途
ダイオードにはさまざまな種類があることがわかりましたが、それぞれどのような特性があるのでしょうか。代表的なダイオードの特性や用途をご紹介します。
代表的な構造図
整流ダイオード
整流ダイオードの主な目的は、交流を直流に変換することです。整流ダイオードは、パワー半導体の中でも特に高い電流や電圧を扱えることが特徴で、1A以上、400~600Vといった高電流、高電圧を容易に扱えます。電力会社から供給される一次側電源などで利用されています。
ツェナーダイオード
ツェナーダイオードは、一定の電圧を回路に送り込んだり、過電流などから回路やICを守ったりするパワー半導体です。
PN接合ダイオードに逆方向の電圧を印加すると、電流は増加しますが出力電圧は一定に保たれるという特性があります。この特性をツェナー効果といい、保たれる電圧をツェナー電圧と呼びます。これを利用したのがツェナーダイオードです。出力電圧を一定に保つ特性から、「定電圧ダイオード」とも呼ばれます。ちなみに、ツェナーは同現象を発見したアメリカの物理学者、クラレンス・ツェナー氏に由来しています。
TVSダイオード
TVSダイオードもツェナーダイオードと同じように、ダイオードが持つ逆方向の特性を活かし、想定外の過電圧からICや回路を保護する目的で使用されるものです。
具体的には、保護したい回路やICと電源のあいだにTVSダイオードを配置します。TVSダイオードは、電圧が正常であるときは特に動作はしませんが、急激な過電圧であるサージが加わった際には、ピークパルス電流として流すことで、ICや回路を保護します。なお、サージの主な原因として雷静電気が挙げられます。
PINダイオード
P型半導体とN型半導体のあいだに、抵抗値の高いI型半導体(真性半導体)を加えたのがPINダイオードです。順方向の電圧を印加すると可変抵抗のように働く一方、逆方向の電圧を印加すると電荷を蓄えるといったコンデンサの働きをします。また、PINダイオードは高い周波数特性を持つため、「高周波ダイオード」とも呼ばれます。
PINダイオードの用途は、テレビやオーディオ機器などに送られる電波信号を適切なレベルに減衰させるアッテネーターのほか、高周波信号のモバイル機器、AGC回路用の可変抵抗素子などです。
ショットキーバリアダイオード
ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)は、N型半導体にモリブデンなどの金属を接合させた構造で、PN接合ダイオードと比較するとスイッチングが早いのが特徴です。
この特性から、電子機器などに直接接続する電源(二次電源)側で、整流用として広く利用されています。
5. トランジスタの基本原理と分類
トランジスタは、増幅やスイッチングの働きを持つ半導体デバイスです。中でも、扱うことができる電圧や電流が大きいトランジスタをパワートランジスタと呼び、パワー半導体に分類されます。
トランジスタの機能のひとつである「増幅機能」は、ラジオの音声信号を大きくして、スピーカーで鳴らすといったシーンで使われます。また、電流や電圧をオン・オフすることもできます。そのほか、モーターなどの部品を動かしたり停止させたりするといったシーンで使われる「スイッチ機能」も、トランジスタの機能のひとつです。
ここでは、トランジスタの基本原理や分類について、詳しく見ていきましょう。
トランジスタ(NPN型)の基本原理
トランジスタは、増幅とスイッチングという2つの機能をどのように実現しているのか、NPN型トランジスタを例に解説します。
NPN型トランジスタは、N型半導体2つのあいだにP型半導体が挟まれた構造をしており、N型半導体からは「エミッタ」と「コレクタ」と呼ばれる端子、P型半導体からは「ベース」と呼ばれる端子の、合計3本の端子が出ています。
3本の端子が出ているのは、トランジスタの基本的な構造でもあります。NPN型トランジスタのベース端子から微弱電流を流すと、コレクタからエミッタ側に入力の数百倍もの電流が流れます。これが増幅効果です。
一方、スイッチング機能は至ってシンプルです。ベース端子に一定以上の電圧がかかり、微弱電流が流れるとスイッチオン、ベース端子への電圧が一定以下の場合には電流が流れずスイッチオフとなることで、スイッチングデバイスとしての役割を果たします。
トランジスタの分類
トランジスタの大きな分類は、「バイポーラトランジスタ」「ユニポーラトランジスタ」「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)」の3つです。
バイポーラトランジスタの代表的なものに「BJT」、ユニポーラトランジスタの代表的なものに「FET」があります。
6. トランジスタの特性と用途
トランジスタにはたくさんの種類があり、特性もさまざまです。ここでは、近年注目されている種類をいくつかご紹介するとともに、その用途を見ていきましょう。
BJT
バイポーラトランジスタの一種に、バイポーラトランジスタの一種に、BJT(Bipolar Junction Transistor)があります。小さな電流を入力することで大きな電流を得ることができる一方、スイッチング速度はさほど速くなく、スイッチング時の消費電力が大きいのが特徴です。
BJTには「NPN型」と「PNP型」があり、増幅器、発振器、低電圧でのスイッチングなどで使用されています。
FET
BJTが電流駆動であったのに対し、電圧で駆動するユニポーラトランジスタの一種がFET(Field Effect Transistor)です。FETは「電界効果トランジスタ」ともいい、トランジスタとしての役割はBJTと同じですが、スイッチングが速い、消費電力が少ないという点が特長です。
FETはさらに、「接合型FET」「MOSFET」「GaAs型」に細分化されます。接合型FETはオーディオ機器などのアナログ回路に、MOSFETはマイコンなどデジタルICに、GaAs型は衛星放送受信などマイクロ波の増幅などに、それぞれ利用されています。
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)は、MOSFETとバイポーラトランジスタそれぞれの特性を兼ね備えたパワートランジスタです。具体的には、600~1200Vという高電圧での稼働が可能で、5~1000Aといった大電流を増幅する特徴を持ちます。
このような特徴からIGBTの用途は幅広く、各種インバータ機器、エアコン、IH炊飯器、電力・パワーグリッド、電鉄などの大型輸送機、データセンター、重量子線治療やMRI等の医療・ヘルスケア、産業機器、工作機器、EV用モーターの制御も含めた車載用パワー半導体などとして使用されています。
7. パワー半導体の新素材
冒頭でご紹介したように、これまでのパワー半導体はシリコン製が一般的でした。しかし、昨今は用途のさらなる拡大や、カーボンニュートラルを実現するためのより積極的な省電力化の必要性などから、新たな素材を使ったパワー半導体が開発され、実用化も着々と進んでいます。
近年、半導体の素材として注目されているのは、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(窒化ガリウム)です。SiCはSi(シリコン)とC(炭素)から合成され、GaNはGa(ガリウム)とN(窒素)から合成されます。どちらも単体の素材で構成されるSiとは異なり、複数の化合物で構成される半導体材料です。
SiCは高温動作時の安定性や高耐圧性、動作時の電力低損失性に優れており、電気自動車や太陽光発電で使われるケースが増えてきています。
GaNは従来、青色LEDやレーザーデバイスとして利用されていました。高耐圧性に優れるとともに、大電圧・大容量の変換ができるという特性から、特にスマートフォンの充電器用、パソコン用のACアダプター用半導体に使用されています。今後は、データセンターのサーバー用電源といったシーンでの利活用が期待される素材です。
8. パワー半導体のことなら、開発から一貫生産できるミネベアミツミにご相談を
多種多様な精密部品を取り扱うミネベアミツミは、チップビジネスの展開にとどまらず、パッケージングおよびモジュール化の技術や生産能力の向上によってパワー半導体ビジネスを拡大しています。
今後はパワー半導体の開発から生産までの体制を一貫させるとともに、ミネベアミツミが強い電源周りの製品と組み合わせることで、大電流に対応する画期的なパワー半導体の提供を実現していきます。
さらには、次世代のパワー半導体であるSiCなどの開発や製造も手掛けています。パワー半導体について何かお聞きになりたいことやご相談などがございましたら、お気軽にご連絡ください。
導入をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。