潤滑
流体潤滑と境界潤滑
潤滑の形態に、流体潤滑と境界潤滑があることはよく知られています。ミネベアの滑り軸受製品はその性能からいって高荷重で使用される場合が多く(面圧49N/mm2 { 5kgf/mm2 } 以上)条件としては境界潤滑が中心です。境界潤滑状態では金属の直接接触が生じることは避けられないため、摩擦係数は流体潤滑にくらべてかなり大きくなります。
さらに滑り面に付着した潤滑膜は荷重の増加などの苛酷な摩擦条件のもとでは潤滑膜の強さの限界をこえて膜が破断するようになります。また油の流れが少ないために冷却作用も小さく温度上昇によって潤滑剤の粘度が低下し、このため潤滑膜の厚さが減少して潤滑膜の破断がおこりやすくなります。潤滑膜が破断すると金属どうしの摩擦が起こるため、そこに強い凝着が起こり、それが進行するとついには焼付くという現象が生じます。(図17)
また、境界潤滑においては、くり返し摩擦によって潤滑膜がしだいに衰耗し厚さが減少して摩擦を増加させるため、潤滑膜の補修効果の大小が焼き付きを大きく左右することになります。このため、よりきびしい条件で使用する場合には潤滑膜の補修効果を高めることを目的として油溝の形状を工夫したり、またグリースアップの回数を多くしたりする例もあります。(図18)
軸受の使用条件としては、揺動運動の方が回転運動にくらべて条件的に厳しく、したがって摩耗量や焼付きの可能性も揺動運動の方が多くなります。これは揺動運動の場合にはボールの特定部分が受圧面になるため局部的摩耗が進行すること、および運動方向がサイクルごとに変化することによって油膜切れを引き起こしやすいことによるといわれています。
また、荷重状態は交番荷重の方がグリースの流動性が促進されるため、一定方向荷重にくらべて焼付きを起こしにくいといえます。
耐摩耗性を向上させ焼き付きを防止することを目的としてボール球面にクロムめっきをほどこすことがあります。これは、クロム自身がかたい金属で他の金属でこすってもほとんど摩耗しないこと、さらにはクロムの酸化膜が非常に強く容易には破壊されないためクロム酸化膜を貫くレース金属とクロムとの金属結合がほとんど形成されないことによります。実用面では硬質光沢クロムめっきが無光沢または乳白色めっきにくらべてすぐれています。軸受摺動面の表面のあらさも摩耗や焼付きに大巾な影響を与えます。特に、硬度が高いボール球面の表面あらさが粗いとボール金属の摩耗微粉がレース内径に固着して、ボール自身の摩耗が促進されることがあります。
グリース (GREASE)
液体潤滑剤に増稠剤を分散させた半固体または固体状の潤滑剤のことですが、特別な性能を向上させるために他の成分を添加したものもあります。グリースの増稠剤としては主として金属石けんが用いられますが、この石けん分子はグリースの中で細長く繊維状の結晶となって油中に分散しています。
また、この繊維状の結晶はからみ合って網目構造を形づくり、この網目構造のすきまに油が入り込んでいるものと考えられています。グリースはそのままでは何ら外形的な変化をしませんが外力が加わってこの外力が石けん分子間結合以上になるとグリースは流動し始めます。外力が増大すれば流動性は増し、グリースの見かけ粘度は基油の粘度に近づきます。しかし、外力がさらに増大すると繊維状の粒子が切断されるようになります。繊維が切断されると外力を取りのぞいてもグリースは元の状態にもどらなくなり、この状態のことをグリース構造の破断といいます。
メタルタイプの軸受の潤滑にはさまざまなグリースが使用されます。(表17)
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規格 | 温度範囲 | 特性 |
---|---|---|
MIL-PRF-23827 | - 73 ~ + 121 ℃ | 航空機用として一般に使用されているグリースで、耐水性・耐荷重性にすぐれている(黄土色) |
MIL-G-21164 | - 73 ~ + 121 ℃ | MoS2 を添加したグリースで、MIL-G-23827 グリースよりさらに耐荷重性を高めたものMoS2 を |
MIL-PRF-81322 | - 54 ~ + 177 ℃ | 高温特性・耐摩耗性にすぐれている(黄土色) |
シェルアルバニアS2 | - 23 ~ + 121 ℃ | 産業機械用として一般に用いられているグリース(黄土色) |
シェルアルバニアRA | - 40 ~ + 130 ℃ | 低温特性にすぐれ、高速使用に適している(黄土色) |
これらのグリースの運転条件による影響は前述したとおりですが、グリースは未使用でも時間がたてば劣化します。これは、グリースの酸化による腐食性の低分子量の酸の生成、基油の揮発による損失、さらには基油と増稠剤との分離等が起こりグリースが潤滑機能を失ってゆくためです。グリースの有効期限は、銘柄により差異はありますが、通常2 年を限度とします。
グリースニップル
メタルタイプのロッドエンドには各種のグリースニップルが使用されます。(表18)
これはグリースを定期的に注入するためのもので、注入はグリースガンを用いて行います。
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ニップル名称 | 形状 | 特性および適用 | 形式仕様コード |
---|---|---|---|
PB101 |
|
FN | |
B611 |
|
F | |
A-M6F |
|
FAS |
ドライフィルム潤滑剤 (DRY-FILM LUBRICANT)
固体潤滑剤(SOLID LUBRICANT)の一種で、金属表面に潤滑性のある固体皮膜を塗布することによって摩擦係数を減じ、さらには金属の摩擦や焼付けを防止する役割を果たします。
ドライフィルムは、ほとんどのものが二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト(GRAPHITE)等を有機または無機結合剤の中に混入されて構成されています。特に無機結合剤は高温性能を要求されるドライフィルム剤に用いられます。
MoS2 は高温や真空中でも安定していて、非常に低い摩擦係数を示します。この摩擦特性は、MoS2 の組織がせん断されやすい層状構造であることによると考えられており、真空中でのアウトガスが基準値以下のドライフィルムは宇宙用のベアリングにも適用されています。
グラファイトの潤滑作用もその層状組織によるものとみなされていますが、真空中で潤滑性能が著しく低下することから水蒸気その他の蒸気吸着層も潤滑効果を与えているとも考えられています。ドライフィルムは初期のならし運転や振動状態下での焼付き防止には非常に効果的です。また、高温でグリースの仕様温度範囲を越える場合にも良好な潤滑性能を示します。
しかし、荷重が高くて軸受が変形をうけるような条件下では皮膜が薄いこともあり、PTFEタイプほど均一な荷重分布が得られないため、局部的にドライフィルムの摩耗が促進されることがあります。軸受摺動面でのドライフィルムの摩擦係数は0.05 ~ 0.15 程度です。この摩擦係数は荷重が増大すれば減少する傾向にあります。ドライフィルム面はわずかの衝撃でも損傷しやすいため、使用直前まで軸受を袋の中に入れ保護するか、大きなサイズのものはドライフィルム面を紙につつんでおく等の注意が必要です。
また、油や溶剤等におかされるとドライフィルムがはがれることがあるため、取扱いは完全にドライで行って下さい。
ドライフィルムタイプの軸受は、被膜が薄く、また一度はがれれば回復しないため、寿命サイクルが大巾にばらつきます。たとえば、ある条件では500 サイクル程度のものが、条件をかえれば20,000 サイクル程度まで破損しないということも起こりうるわけです。このため、使用条件に適したドライフィルム剤の選定が重要になってきます。(表19)
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ドライフィルム剤 | 温度範囲 | 特性 (結合剤) |
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9002 | - 68 ~ + 204 ℃ | MoS2 一般的なドライフィルム剤(エポキシ) |
# 811 | - 185 ~ + 400 ℃ | MoS2 + グラファイト 低温および高温特性にすぐれる (水ガラス) |
C-200 | - 29 ~ + 400 ℃ 焼付防止用 + 1315 ℃ MAX |
MoS2 + グラファイト + 酸化鉛 超高温特性・耐食性にすぐれる (シリコン) |