転がり玉軸受のトルクは、組付け方、予圧量、潤滑剤の種類や量により変化しますので、それらを要求仕様に合わせて選択する必要があります。
トルク
転がり玉軸受のトルクには「起動トルク」と「回転トルク」があります。
(1)起動トルク
回転していない転がり玉軸受を回転させようとするときの初動・初期のトルクです。回転していない転がり玉軸受は、予圧など軸への荷重が加わっている場合は、それぞれの玉と接触する軌道溝(面)で接触弾性変形をともない停止しています。回転させようとすると、弾性変形を乗り越えるための力を要します。また玉と軌道溝にある潤滑剤を乗り越えるための力も要します。これらの力(抵抗)が起動トルクとなります。
(2)回転トルク
回転中に潤滑剤が玉・軌道溝・保持器により攪拌される力に、玉と保持器の摩擦、玉と軌道溝との摩擦による抵抗も含まれて、回転トルクとなります。転がり玉軸受のトルクは発熱や、モータ類では立ち上がり電流値・定格電流値や定格回転速度・電流値変動・回転むらなどの現象に関わりがあります。
以下に事象例における原因と対策を記載します。
定格回転に至らない
モータを回し始めて定格回転に至らないことがあります。
原因はグリースの封入量が多すぎる、チャーニングタイプのグリースが使われている、はめあいがきつすぎる、予圧量が大きすぎる等が考えられます。
立ち上がり電流値が大きい
モータの立ち上がり電流値が大きい原因はグリース量、チャーニングタイプのグリース等の影響、あるいは予圧やはめあいの影響が考えられます。
回転むら
安定して回転していたモータが、突発的に回転速度が変動し、まもなく安定回転へ復帰するような事象は、封入されたグリースのチャンネルの壁が崩れて、玉と軌道溝の間に入り込んだグリースによって、瞬間的に回転抵抗が変化した場合に見られます。トルクの変動も伴います。
潤滑剤封入量を減らし、よりチャンネリング性の高いグリースに変更するか、逆にチャンネルを作らないチャーニングタイプのグリースに変える等により改善できます。
回転速度と回転トルク
一般的に回転数の上昇に併せてトルクも上昇します。使用する回転数に応じて、予圧量の設定やグリースの選択を行ないます。
グリース封入量と回転トルク
一般的にグリースの封入量が増えると、トルクは上昇します。低トルク化のみを目的として封入量を減らすと、寿命へ影響を与えますので注意が必要です。
温度と回転トルク
一般的に温度が低くなると、トルクは大きくなります。温度変化によりグリースの基油の粘度が高くなる為です。
グリースの封入位置と回転トルク
グリースの封入位置によってトルクの値が変わります。
例えば、保持器上のグリースと内輪外径もしくは外輪内径に付着したグリースがつながって回転する場合と、つながらない場合ではトルクが変わります。
グリースの剪断力がトルクへ影響するためです。
荷重と回転トルク
転がり玉軸受に荷重が加わっていない状態と、荷重が加わっている状態では、起動トルク・回転トルクとも変化します。例えば、予圧が加わっている状態は、予圧が加わっていない状態よりもトルクは高くなります。