転がり玉軸受を軸やハウジングに組付けるとき、組付け方法が適切でないと、異音・振動・発熱などが発生し、早期劣化の原因となります。また、輸送・保管についても注意が必要です。

1 保管上の注意点

玉軸受は、音響・外観検査などを行い、清浄な状態で納品されます。
使用するまでの保管及び取扱いにつきましても、清浄な状態が維持されるように御配慮下さい。

1-1 軸受はゴミを嫌う

玉軸受に、ゴミが侵入すると、玉と軌道溝の間に噛み込まれて音響悪化や耐久性能の低下を引き起こします。
なお、ゴミには、ほこり(微細な繊維、砂塵、紙など)、金属粉などが含まれます。

  • むやみに開封しない
    使用する直前に開封しましょう。
  • 開封後の未使用品(端数)は再包装する
    未使用品は、開封状態にせず、密封包装しましょう。
  • 使用中もゴミに注意する
    使用中も、ゴミが付着しないように、こまめにカバーをするなどして、防塵しましょう。

1-2 軸受は錆びやすい

玉軸受の多くは、高炭素クロム軸受鋼を使用しています。
この材料は、錆びやすいという一面があります。

  • 温度・湿度変化の大きい場所を避ける
    外気や直射日光が当たるような温度・湿度変化が大きい場所は避けて、室内で保管しましょう。
  • 梱包箱は床に直接置かない
    床(地面、コンクリートなど)に直接置かないようにしましょう。
    パレットや棚などの上に置きましょう。
  • 素手で触らない
    きれいなゴム製手袋、指サック、ピンセットなどを使い、素手で直接触らないようにしましょう。
    特に皮脂は発錆原因となる場合が多いので注意が必要です。

1-3 軸受は衝撃に弱い

玉軸受は、衝撃荷重を受けるとブリネリングが発生します。
特に耐荷重性の小さいミネチュア軸受の取扱いには注意しましょう。

  • 乱暴に取扱わない
    包装状態でも高所から落下させたり、投げたりしないようにしましょう。
    軸受を容器などに移し保管する場合も、乱暴に取扱わないようにしましょう。
    ブリネリング・シールド板へこみの原因となります。
  • 落下品は使わない
    床に落とした軸受は使わないようにしましょう。
    落下衝撃によるブリネリングが、異常音の原因となります。

2 使用・組み込み上の注意点

玉軸受の使用・組み込みが不適切な場合、異常音・振動・振れ・回転不具合などが発生します。
作業環境を清浄に保つのは勿論ですが、部品管理・作業管理などに関しても注意を払うようにしましょう。

2-1 手を加えない

軸受は納品時の状態のまま使用しましょう。

  • 分解や再組立て
    軸受の分解や再組立ては行わないようにしましょう。
    ゴミの侵入やキズにより、異常音・回転不具合が発生します。

2-2 清浄度

軸受や相手部品の清浄度に注意しましょう。

  • 部品の洗浄(図19-1)
    シャフトやハウジングなど、軸受を組付ける部品はきれいにしましょう。
    シャフトやハウジングに付着した異物が異常音やミスアライメント(組立て精度不具合)を発生させます。


図19-1 異物・キズによるミスアライメント

2-3 オイル拭き取り

接着前に軸受の外径や内径に塗布されている防錆油を拭き取る場合がありますが、溶剤などが軸受内に侵入することで、異音や回転不具合が発生します。

  • 清浄な防塵布などを使う
    拭き取りに使用する布は、塵の発生しないものを使用しましょう。
    使用頻度を考慮して、清浄を保つようにしましょう。
  • 使用する溶剤は最小限に
    通常、布にアルコールなどの溶剤を浸み込ませて拭き取りを行いますが、溶剤は最小限にしましょう。
    溶剤が多すぎると、溶剤と共にゴミが軸受内部に侵入し、異音が発生します。

2-4 はめあい

不適切な"はめあい"は、クリープ(すべり摩耗)、回転不具合(トルク大、振動、発熱)、ブリネリングなどを発生させます。

  • シャフトやハウジングの真円度
    シャフトやハウジングの真円度に注意しましょう。
    シャフトやハウジングの形状が、内輪や外輪の軌道溝に転写され、真円度が悪化し、振動・異常音・振れなどが発生します。
    特に、ミネチュア軸受では、変形しやすいため注意が必要です。
  • シャフトやハウジングの寸法
    シャフトやハウジングの寸法が、正しくできているか確認しましょう。
    寸法不具合による、"はめあい"面の過大な圧入は、回転不具合(トルク、振動、発熱)、ブリネリングなどを発生させます。
  • シャフトやハウジングの形状(設計上の注意点)
    シャフトやハウジングの形状に注意しましょう。
    シャフト外周の不連続形状や、ハウジング端面側に設けられたネジにより、内輪や外輪の真円度が悪化することがあります。
  • シャフトやハウジングの面取り
    シャフトやハウジングの面取りで軸受端面が突き当たる部分は、大きさや形状に注意しましょう。
    面取りが干渉すると、正しい位置に組付かず、ミスアライメント(組立て精度不具合)が発生します。
  • シャフトやハウジングのバリ、キズ
    シャフトやハウジングにバリやキズがないか確認しましょう。
    軸受が接触する面にバリが挟まると、ミスアライメント(組立て精度不具合)が発生したり、"はめあい"面のキズが、内輪や外輪の軌道溝の真円度を悪化させることがあります。

2-5 荷重・振動

軸受をシャフトやハウジングに挿入する際に、押し方を間違えると、ブリネリングが発生します。また、組立てラインの振動などで、フレッチングが発生することもあります。
容器への移し替えが乱雑に行われると軸受同士がぶつかり合ってシールド板のへこみが発生します。

  • シャフトに圧入するときは内輪を押す(図19-2)
    シャフトに軸受を挿入するときは、内輪端面を押しましょう。
    外輪端面を押すと、ブリネリングが発生します。
  • ハウジングに圧入するときは外輪を押す(図19-2)
    ハウジングに軸受を挿入するときは、外輪端面を押しましょう。
    内輪端面を押すと、ブリネリングが発生します。


図19-2 圧入時の荷重位置

  • まっすぐに入れる(図19-3)
    適切な冶工具を用いて、まっすぐに挿入しましょう。
    斜めに挿入するとシャフトやハウジングにカジリキズを発生することがあり、カジリ粉の挟み込みによるミスアライメント(組立て精度不具合)やキズによる真円度悪化が発生します。


図19-3 挿入時の取扱い

  • 振動(ベルトコンベアの振動など)
    ベルトコンベアを使う場合には、振動を軽減するようにしましょう。
    回転していない軸受に微振動を加えるとフレッチングが発生します。

2-6 接着剤

軸受の固定に接着剤を使用する場合には、軸受内部への侵入や、厚さムラなどに注意しましょう。異常音や回転不具合などが発生します。
特にミネチュア軸受の場合、作業が難しいことや内輪や外輪の肉が薄く変形しやすいため注意しましょう。
接着剤の種類と性質を十分理解して使用するようにしましょう。

  • 接着剤の侵入予防(図19-4)
    シャフトやハウジングに接着剤溜りの溝を設けるなど工夫をしましょう。
    また、塗布位置は、シャフト端部、軸受面取り部などに塗布しましょう。


図19-4 接着剤の塗布(例)

  • 塗布量の管理
    ディスペンサーなどで量を管理して必要最小限にしましょう。
  • 接着ムラの無いように
    厚さのムラが、軸受の真円度を悪化させることがあります。
    接着剤は均一に塗布するようにしましょう。

2-7 エアー吹き付け

ゴミ除去などを目的に圧縮空気を使用することがありますが、吹き付け方によって、異常音、回転不具合などが発生します。

2-8 ハウジングへのグリース塗布

音や振動の低減を目的に、ハウジングにグリースを塗布することがありますが、使用するグリースには注意が必要です。

  • 性状の異なるグリースは使わない
    軸受に封入されているグリースと性状の異なるグリースが混ざることにより、性能に影響を及ぼすことがあります。
  • 清浄なグリースを使用する
    汚れたグリースを使用すると、軸受内部に異物が侵入し、異音が発生します。

2-9 ワニスガス

モータコイルにワニスを含浸する場合、乾燥不足で発生するワニスガスにより錆びが発生します。
異常音が発生することもあります。

2-10 ケミカルアタック

軸受の組付け部が樹脂の場合、油類により、ケミカルアタック(樹脂割れ)を引き起こすことがあります。

  • 樹脂材料の確認
    樹脂材料の種類により、ケミカルアタックを起こす程度に違いがあります。
    使用材料の特性を理解して使いましょう。
  • はめあい公差の確認
    ひずみ量が多いとケミカルアタックが発生しやすくなります。
    使用前の寸法確認をきちんと行いましょう。

2-11 着磁の影響

軸受を着磁させないようにしましょう。鉄系異物を引き寄せ、異常音やミスアライメント(組立て精度不具合)が発生します。

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